無鄰菴 くぐり戸を抜けて
疎水沿いに東へ
京都市美術館から仁王門通を疎水沿いに歩いて10分足らず。
山県有朋の別荘として、また日露戦争の外交方針が話し合われた場所として名高い無鄰菴です。
なんだかいかめしい雰囲気を想像していましたが、ところがどっこい!
東山連峰と疎水が織り成す自然か、七代目小川治兵衛作のお庭か、それとも山県の人柄を反映したのでしょうか・・・。厳格さと大らかさが同居する世界へいざ。
贅沢なひとときに
受付で入園とお抹茶をお願いすると「ほなご用意しますから中で待っといてください。」普通は散策後の休憩にお茶を一服といったところらしいのですが、いきなりお抹茶が飲みたいという無茶振りにも気前よく応じてくださいました。
母屋の1階がお茶席です。お軸の本紙には漆黒で「○」。床の間には薄青い香合。そして赤い毛氈の上でお庭から風を受けてほっこりしていると、お抹茶の登場です。歩き疲れた脚と心を少し解放。目の前には秋の陽に色づき始めた木々が揺れています。遮るものは何もない、この贅沢感!
視覚と聴覚で・・・
砂利道に導かれて再び散策。薮内流の茶室「燕庵」を模して造られた茶室に三段の滝と、回遊式庭園ならではの変化に富んだ景色が広がります。
絶えず流れる水の音、やはり落ち着きます。「チュチュチュ・・・」とさえずりながら苔の上を反復横跳びする小鳥、かわいいなぁ。近くに学校でもあるのでしょうか、吹奏楽が奏でる「メモリー」(ミュージカル「キャッツ」のあの曲)、これはこれで夕焼けにぴったり。そして「ンガア」と鳴きながら水面に顔を突っ込んでバチャバチャ音を立てる、鴨と鷺。なんてのどかなんでしょう。高い木々からの木漏れ日はやわらかく、まるで森に迷い込んだよう!
嗅覚とそして・・・
洋館の1階は、山県と小川の愛用品や作庭の写真がずらり。いよいよ2階です。暗い。その中にひっそりと浮かび上がる調度品と障壁画。とにかく暗い。ちょっと肌寒い。そして独特のにおい。
実際は明かりをちゃんとつけていたと思いますが、明治期の別荘の洋館にふさわしい重厚な空気に満ちています。洋室に狩野派の障壁画を合わせるという斬新さもあいまって、ちょっと鳥肌。
それにしても、写真に写る軍服姿の山県は、小柄な体をぴしっと伸ばして胸を張り、やはり堂々たる風格です。
見出すものは人それぞれ
あくまで観光にはもってこいの名所ではありますが、わいわい歓声をあげたりするのはこの場所には似合いません。喧騒を離れて静かに思いを巡らせていると、ふと自然が背中を押してくれるのを感じられるでしょう。表門からくぐり戸を抜けたあとに広がる世界は、人それぞれに違うメッセージを発しているはずです。
入園時間:9時~17時(受付は~16:30)
休園日:12月29日~翌1月3日
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